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『がんはなぜ生じるか』 永田親義著 講談社ブルーバックス 2011年現在、日本人の死因のトップはがんです。単純な統計で言えば、日本人の3人に1人ががんになり、2人に1人はがんで亡くなる時代です。仮に自分ががんにならなかったとしても、家族の誰かががんになる可能性を秘めているわけで、これは人事ではなく、自分自身の問題として考えておく必要があることを示していると思います。
 がんの研究は、少しずつ進んでいるそうですが、まだまだ完全な克服までは先が見えないような状態だそうです。がんの新しい知見が現れても、すぐにそれを否定するものが現れたりと、とにかくがんというものは、多細胞生物にとっては最も手ごわい相手です。この本の著者は、そのことを本書の中で「麓には至るところにたくさんの登山道があって、人々はそれぞれ頂上を目指して登っている。どのルートの登山者も、ほぼ五、六合目辺りまで到達しているが、そこから上は嶮しくて容易に登れない。というのは、七、八合目から上は雲に覆われてなかなかその姿を見せず、人々がそれ以上に登ることを拒んでいるからである。厚い雲が時に薄まることがあって、頂上付近の山容をチラリと見せることがあり、登山者は一瞬その容姿を思い画くが、すぐまた厚い雲に覆われてしまって確かなことは分からなくなってしまう。」と、難攻不落の登山に喩えています。
 そもそもがんはなぜ生じるのか?がんを作る物質はあるのか?それだけが原因なのか?・・・と、最大の難敵であるがんには、原因だけではなく、その発生と機序などに、多くの謎が残っています。本書は、発がん物質の分類から始まり、がん発生のメカニズム、現在考えられている発がんメカニズムの諸説を順番に、そして丁寧に洗い出しています。著者はもともと量子化学を専攻し、ノーベル賞を受賞した福井謙一氏の弟子として、フロンティア電子理論をがん研究に応用してきた方で、活性酸素によるがんのフリーラジカル説を提唱した人です。科学者としてのがん研究のまとめとして、一読しておきたい一冊です。

本書のデータ

LinkIcon『がんはなぜ生じるか』 -原因と発生のメカニズムを探る
著者 永田親義
発行 講談社ブルーバックスシリーズ
初版 2007年12月20日

著者のご紹介

永田親義
1922年鹿児島県生まれ。京都大学工学部卒。福井謙一博士の研究室で量子化学専攻。フロンティア電子理論を生体反応に適用する研究を進めた。1962年、国立がんセンター研究所に移り、生物物理部長として発がんメカニズムの研究を推進し、フリーラジカル発がん説を提唱。1985年定年退職後、福井博士のノーベル賞受賞を記念して設立された(財)基礎科学研究所(現・京都大学福井謙一記念研究センター)評議員。工博。

その他の著書

『活性酸素の話』1996年
『量子生物学入門』1975年
『独創を阻むもの』1994年
『人のがんはなぜ生じるか』1987年
『ノーベル賞の周辺 福井謙一博士と京都大学の自由な学風』1999年
『分子および電子レベルからみたがん発生の機構』1982年
『新しい量子力学 電子から見た生命のしくみ』1989年

本書の巻末に掲載されている参考文献

「IARC Monographs on the evaluation of the carcinogenic risk of the chemicals to humans」19, 1979
『がん細胞の誕生』 朝日選書 黒木登志夫 1983年
『分子および電子レベルからみたがん発生の機構』1982年
『人のがんはなぜ生じるか』1987年
『がん化のメカニズム』 読売科学選書 児玉昌彦 1987年
『活性酸素の話』 講談社ブルーバックス 永田親義 1996年
『ウィルスとガン』 岩波新書 畑中正一 1981年
『ガン遺伝子を追う』 岩波新書 高野利也 1986年
『がん遺伝子に挑む(上)(下)』 東京化学同人 N・エインジャー 野田洋子・野田亮訳 1991年
『遺伝子で診断する』 PHP新書 中村祐輔 1996年
『公共事業をどうするか』 岩波新書 五十嵐敬喜、小川明雄 1997年
『がん研究レース』 岩波書店 ロバート・ワインバーグ 野田亮・野田洋子訳 1999年
『がん遺伝子を追いつめる』 文春新書 掛札堅 1999年
『がんをつくる社会』 共同通信社 ロバート・N・プロクター 平澤正夫訳 2000年
『がん遺伝子を追う』 朝日新聞社 マイケル・ウォルドホルツ 大平裕司訳 2002年
『食べ物とがん予防』 文春新書 坪野吉孝 2002年
『これでわかるディーゼル排ガス汚染』 合同出版嵯峨井勝 2002年
『がんになる人ならない人』 講談社ブルーバックス 津金昌一郎 2004年
『アスベスト汚染と健康被害』 日本評論社 森永謙二編 2005年
『厚生労働省平成16年度国民健康・栄養調査報告』 第一出版 健康・栄養情報研究会編 2006年
「癌幹細胞」医学のあゆみ219巻3号 医歯薬出版 2006年